2018/09/10
闇夜の指令-番外編05-
誰もいなくなったパーティー会場のステージで、一人ひざまずく全裸の男がいた。人生を玩具にされた余興からどのくらいの時間が経過したのだろう。腹に飛翔した精液も、頬に流した大粒の涙もすでにすっかり乾き、茫然と虚空を見つめていた。「先輩、よく頑張りましたね。楽しかったですよ。」
ふと、暗闇から後輩が現れた。
「いろいろ暴露されてがっかりしちゃいました?でもそんなに悲しまないでくださいよ。先輩の人生は終わったわけじゃないんですよ。始まったんです。」
後輩の右手には鍵が握られていた。自分の部屋のアパートの鍵だ。
「今日はこの格好のまま家まで帰ってください。ルートはお任せします。おまわりさんに見つからないように気をつけてくださいね。」
目の前に鍵が放り投げられた。
「では、また会社で会いましょう!捕まらなけばね。」
後輩の姿が消え、永遠の闇が再び戻った。
「先輩のリフレッシュ休暇、僕がプランを考えておきましたよ。」
あの悪夢の余興からしばらく経ったある日の午後、後輩の悪魔の囁きが聞こえた。自分を貶めることを喜びにしている奴のことだ、ろくな提案ではないだろう。得も言われぬ不安感がこみ上げてくる。
「メールチェックしておいてくださいね。」
すぐにパソコンのメールを立ち上げる。多くの仕事関連のメールの上位に異質なタイトルが目に入った。
「チンポ芸人さっとしーの珍芸全国ツアー開催!」
慌ててメールを開く。PDFファイルが添付されており、それはイベントのチラシだった。
「チンポ芸人として売り出し中のさとっしーが全国ツアーを開催!今回はチケット代は無料!全額さっとしーが自腹で負担します!ネットで有名な数々の珍芸・チンポ芸を生でお楽しみください!」
そのようなコピーと共に全国の7つの都市の名称と開催時間、また小劇場であったりライブハウスであったりの会場名が記載されていた。また全裸でがに股になり、両手でピースサインを作っている自分の写真がでかでかと使われていた。目は傍線で、陰部はハートのスタンプで隠されてはいたが。
ハンマーで頭を殴られたような気がした。何が起こっているのかわからない。
メールの本文を見ると、後輩からの「指令」が下っていた。
「先輩はこれからチンポ芸人として有名人になってもらいます!そのために全国ツアーを企画しました。もう会場は押さえておきました。仕事が早いでしょ?先輩がリフレッシュ休暇のために積み立てておいた貯金を全額使って会場費を支払ってください。移動ももちろん自腹です。芸人なんだから下積みも必要ですよね。
今から毎日いろんなチンポ芸を考えて、もちねたを増やしておいてくださいね。海外のサイトのリンクを貼っておくのでじっくり研究しておくこと。「・・・Puppetry of the penis .com」
もちろん、ツアー中の射精は禁止です。ステージ上でのみ許可しますので、お客さんの前で派手にぶっ放してください。またいつものドリンクもちゃんと服用するように。
先輩のツアーが成功するようにネットを使ってチラシを拡散しまくります。たくさんの人が来てくれるといいですね!」
頭の整理がつかない。茫然とパソコンの画面を見つめた。リフレッシュ休暇は南国でバカンスしようか、または世界遺産の遺跡などを見て回ろうかとずっと思いを巡らせてきたのだ。それを日本全国でチンポを使った芸を披露して回ることになるだろうとは夢にも想像できなかった。しかもこつこつ貯めた旅行資金も全て費やさなければならない。
目を閉じると地方都市の小さなライブハウスで全裸になってチンポをいじる自分の姿とそれを嘲笑う観客の姿が見えた。そのあまりにも悲惨な未来に身震いすると同時に、何か熱いものが胸にこみ上げてくるのを感じた。
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