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闇夜の指令03

 通りに出た。人通りの少ない小道とは言え、やはり通りを走るのは訳が違う。公園と違って暗闇が少ない。常に灯りに照らされて全裸の男が走っているのだ。呼吸が荒くなる。口の中が乾くのがわかる。性器は心の奥の心細さを反映して、小さく縮こまってしまった。走るたびにぷるぷると揺れる。
 ふと、遠い昔のことを思い出した。中学生の時の修学旅行の夜。一番最後に風呂から出ると自分の服がない。タオルもない。その代わりに一枚、小さな紙切れが置かれていた。
「服はもらった。フルチンで部屋まで来たら返してあげよう。怪盗ルパン」
同じクラスの悪ガキのいたずらだ。心臓がどきんと音を立てた。周囲を見渡した。この小さな脱衣所にはチンコを隠せそうなものは何も見当たらない。とにかく何もないのだ。手で身体についた水を切り、思い切って脱衣所から飛び出した。遠くに女子の声が聞こえる。全身の血の気がさっと引いていき、頭の中がくらくらする。
 そう、あの時の感じだ。遠い昔の感覚が蘇ってくる。あの時は結局数名の女子とすれ違って、悲鳴を浴びつつ何とか部屋まで辿り着いたが、今回は子どものいたずらでは済まないのだ。

 幸いこの小道では誰もすれ違わなかったが、目の前に大きな光と喧騒が迫ってくる。駅前通りだ。行きたくない。でも行くしかない。一刻も早くあの画像を消してもらわなければならない。
 ついに駅前通りに飛び出した。ぱっと見ただけでも何十人もの人の姿が見える。仕事帰りのサラリーマン。ほろ酔いの学生。コンビニ袋を手にしたOL。塾から帰る女子高生。思わず反射的に性器を手で覆いそうになったが、あいつからのメールを思い出す。

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もちろん走ってる時に手でチンコ隠しちゃだめだよ。
立派なチンコしてるんだから見せつけなきゃね。
一瞬でも隠したら鬼拡散して有名人になってもらうからね。
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 バンジージャンプで飛び降りる時もこんな気持ちなのだろうか。さすがにここでは人々の視線から逃げることはできない。
「うぉーー!」
「えっ?」
「何だあれ?」
「うそ!」
「何?何?」
「ストリーキング!」
「撮れ!撮れ!」
「罰ゲームか?」
「がんばれー!」

 四方八方からの人々の声が嫌でも耳に入る。事情もよくわからずに、この全裸マラソンにエールを送ってくれるカップルもいる。チャリティ番組のマラソンのようなものと勘違いしているのかもしれない。
 実態は全く違う。この駅前通りは地獄へと続く道だ。多くの人々の喝采や嬌声を浴びながら、人間としての尊厳を一枚ずつ脱ぎ捨て、僕は堕ちるのだ。握りしめた手は汗でびっしょりだ。夜風が地肌に冷たく纏わりつく。首の後ろにぞくっとしたものを感じた。

 普段は何気なく歩いている街。マッサージ店のネオンやマンガ喫茶の看板、焼き鳥屋からの煙、古びたビルの壁、家路を急ぐ人の群れ。目に見える全てがぐらぐらと歪んで見える。たくさんの服を着た人の林の中を、全裸の男が走り抜ける。この文明社会に突如、原始人がタイムスリップして来たような、奇妙な光景だ。無様なに性器を揺らしながら、男は駅前の人の波に吸い込まれていく。

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天使マン【羞恥小説】

Author:天使マン【羞恥小説】
忘年会やパーティでの裸踊り・チンポ芸など大好きな「天使マン」です。いじめられる男、羞恥系M男小説をたまに書いてます。
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